物語
第二次世界大戦時、英印軍のゴルカ傭兵(日本軍はグルカ兵と呼んだ)だったスヨグ・ビル(ガネス・マン・ラマ)は、
ビルマ戦線に駐屯し、男の本性を剥き出して生きていた。
しかし日本軍の攻撃の前にあえなく蹴散らされ、ほうほうの体でカトマンズに逃げ帰るが、
その心には癒しがたい傷跡が残された。
そんなスヨグ・ビルを戦地から凱旋した英雄だと褒めそやすばかりの飲み友達、
シブラージュ(ジャガット・ラスティア)は、スヨグ・ビルを妹たちに引き合わせたいと
自らの屋敷にスヨグ・ビルを招き入れる。
シブラージュの家は、青い花を満開に咲かせたシリスの木立に囲まれた大邸宅だった。
シブラージュの妹、次女のサカンバリ(サルミラ・グルン)は、
その家にひきこもって得体の知れない思索に耽る不可解な若い女。
彼女の性格は暗く残酷で、スヨグ・ビルを前にしても意地の悪い冷笑を返すばかりだった。
スヨグは、サカンバリに辟易とし、シブラージュのほかの妹たち、
長女のムジュラ(スーザニア・スッバ)や三女のサヌ(アプサラ・カルキ)へと興味を逸らそうとする。
スヨグ・ビルとサカンバリは、いくつかの機会に激しく衝突し、
サカンバリは、スヨグ・ビルの戦争犯罪と暴力性を容赦なく暴き立てる。
激しく心を揺さぶられるスヨグ・ビル。
それでいて、ふたりの孤独な魂は、心の奥深くで少しずつ共鳴し始めていた。
しかし、戦争体験による傷深い心を抱えたスヨグ・ビルと、
誰からも愛されることを拒み続けるサカンバリとのあいだに生まれた秘めやかな愛の交錯は、
その感情表現ににおいても、その態度と行動においても、痛ましい結果を予感させずにはいないものだった。
解説
東京情報大学教授で、ネパール映画研究の第一人者である伊藤敏朗監督は、
自身初めてのネパール映画となる『カタプタリ~風の村の伝説~』を撮影していた時(2007)、
ネパールの映画プロデューサーであるジャガット・ラスティア氏からから1本のネパール映画の監督オファーを受けました。
ジャガット氏は当初、別のネパール人の脚本家と監督を起用して、すでにその一部の撮影にとりかかっていたのですが、
内容の難解さを克服できず、製作はほとんど中断していました。
ジャガット氏は完成した『カタプタリ』を見ると、それまでに撮っていた素材を全て捨て、
伊藤敏朗監督作品として本プロジェクトをゼロから再スタートすることにしたのです。
日本人にとって、ネパールという国は、"ヒマラヤの懐に抱かれた牧歌的な王国"といった素朴なイメージが先行しがちですが、
もとよりその精神性や芸術的な思索にはきわめて深いものがあります。
パリジャートの詩・小説の世界はそのもっとも高みに位置するものといってよいでしょう。
しかし、その世界観の映画化の困難は並大抵ではありませんでした。
伊藤監督のシナリオ・リライティングによって、ジャガット氏が最初に採用したシナリオは大きく変更されることとなりましたが、
登場人物の造形はより原作に忠実なものになりました。
いっぽうで観客の理解を助ける目的から、原作にはない場面も追加するなどして普遍性をもたせ、
パリジャートのメッセージはより鮮明に浮かび上がりました。
伊藤監督は2009年1月、教鞭をとる東京情報大学の大学のゼミ生1名をともなってカトマンズに入り、
同年2月16日クランクインしました。監督の日本への帰国による中断を挟みつつ、同年8月にクランクアップしました。
本作の内容の難解さを映画的に解決していく一方で、1960年代のカトマンズの風景と暮らしぶりを忠実に再現していくなど、
ネパール人スタッフにとっても経験したことのない苦労の連続でした。
この間にプロデューサーはジャガット・ラスティア氏から、
本作の主演者でもあるガネス・マン・ラマ氏に交代しましたが、編集・録音作業は地道に継続され、
足かけ4年の歳月の末、遂に完成。
2013年5月3日、カトマンズ市内13館にて一斉ロードショーされると、
現地マスメディアは大きく報道、絶賛の嵐に包まれました。
本作は、2013年度ネパール政府国家映画賞撮影賞を受賞しています。
キャスト
Suyog: Ganesh Man Lama / 主人公スヨグ:ガネス・マン・ラマ
Bari: Sarmila Gurung / 主人公サカンバリ(次女):サルミラ・グルン
Shibaraj: Jagat Rajthala / 友人シブラージュ:ジャガット・ラスティア
Mujura: Saujanya Subba / 長女ムジュラ:スーザニア・スッバ
Sanu: Apsara Karki / 三女サヌ:アプサラ・カルキ
Sainik: Shaym Rai / 戦友:シャミ・ライ
Shibaraj's Mother: Laxmi Bhusal / シブラージュらの母:ラクシュミ・ブシャール
Bajai: Anju Ranjit / 女中:アンジュ・ランジット
Librarian: Ganesh Munal / 図書館員:ガネス・ムナール
Old Man: Late Gopal Bhutani / 寺の老人:ゴパール・ブタニ
Suyog's Mother: Bashundhara Bhusal / スヨグの母:バスンダラ・ブシャール
Kanchha: Manohar Gautam / 使用人:マノア・ゴータム
Matinchi: Chandani Lama / ビルマの女性:チャンダニ・ラマ
Ram: Santosh Lama / サヌの恋人:サントス・ラマ
Road Drama Artists: Rabi Dangol & Sabin Shakya / 大道芸人:ラビ・ドォンゴル&サビン・サッキャ
スタッフ
Director of Photography: Gauri Shanker Dhunju / 撮影監督:ガウリ・シャンカ・ドゥンズ
Music: Dinesh Sunam / 音楽:デニス・スナム
Sound: Deep Tuladhar / 音響:ディープ・トゥラダル
Associate Director: Desha Bhakta Khanal / 助監督:デス・バクタ・カナル
Associate Director: Bijay Ratna Tuladhar / 助監督:ビザイ・ラトナ・トゥラダル
Production Manager: Lalit Subba / 製作マネージャー:ラリット・スッバ
Art Director: Late Gopal Bhutani / Shinge Lama / 美術:ゴパール・ブタニ / シンゲ・ラマ
Camera: Narayan G.C. / カメラ:ナラヤン GC
Assistant of Director: Kenta Kan / 監督補佐:菅健太
Based on the Novel"Shirish Ko Phool" by Parijat / 原作:パリジャート
We are greatfull to the Parijat Memorial Centre,Kathmandu / 原作著作:パリジャート記念財団
Screenplay: Nayan Raj Pande / Toshiaki Itoh / 脚色:ナヤン・ラジ・パンデ / 伊藤敏朗
Presented by Film Creation Nepal Pvt.Ltd. / 提供:フィルム・クリエーション・ネパール
Excective producer: Ganesh Man Lama / エグゼクティブ・プロデューサー:ガネス・マン・ラマ
Director :Dr.Toshiaki Itoh / 監督:伊藤敏朗