震災国日本とネパールの
新たな絆を描く復興支援映画

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解説


震災国・日本とネパール 新たな絆の誕生

 2015年4月25日、ネパールを襲った巨大地震は同国に甚大な被害をもたらしました。 世界はこの小さくも美しい国にただちに救援の手を差し伸べました。 そして日本から現地に派遣された国際緊急援助隊(JDR:Japan Disaster Relief Team)と、 現地のネパール人の人々の間に、同じ震災国同士の震災復興で結ばれた、新たな絆が生まれました。
 ネパールの映画俳優ガネス・ラマは、日本語に堪能で、当地の会社経営もしていたことから、 日本隊からの要請に応えて惜しみない協力を果たしました。 日本側の求めで立ち寄った地方の村で、ラマは最大余震(5月12日)に遭遇し、 自らのジープが地滑りに巻き込まれて間一髪で脱出するという場面もありました。 このような功績に対し、ラマはネパールの民間人として唯一、日本隊からの「感謝メダル」を授与されました。
 この実話をもとに、ラマと国際緊急援助隊員を主人公としたドラマ、『カトマンズの約束』は製作されました。 本作は日本の国際緊急援助隊(以下 JDR)の海外での活躍を描いたはじめての劇映画であり、 ネパール国内においても2015年の大地震をテーマとした最初の映画となりました。




復興支援映画『カトマンズの約束』始動

 ネパール映画研究の第一人者にしてネパール映画監督協会会員でもある伊藤敏朗監督(東京情報大学教授)が、 カトマンズを見舞ったのは2015年8月のことです。 これまで伊藤作品に主演してきたガネス・ラマと一緒に、被災地の姿をカメラに収めて歩いた伊藤監督が見たのは、 この瓦礫を踏みしめつつ未来に向かって歩んでいこうとする力強いネパールの人々の姿でした。
 伊藤監督とガネス・ラマは、ラマ自身の体験も踏まえ、震災を通じて生まれた人々の絆のエピソードを映画化し、 今しか撮ることのできないドラマとして残すことで、ネパールの震災復興支援を世界に訴えていこうと考えました。



記録されたカトマンズ被災地の現実と復興の姿

 映画『カトマンズの約束』に克明に記録された傷ついたカトマンズの姿、その瓦礫の上でドラマは撮影されました。
 ことに被害の大きかったサクー、バクタプル、チョータラ、コカナなどの場面には息を呑むものがあります。 伊藤監督の前作『カトマンズに散る花』に描かれたブングマティの美しい寺院・マチェンドラナートが、本作では灰燼に帰している姿も対比され、 大地震の過酷さを克明に描き出しています。
 同時に、人々がただ打ちひしがれるのではなく、力強く復興に歩み出す姿も、カメラはリアルタイムで捉えています。
 大震災にも負けない力強さで繰り出されるラトマチャンドラナートの巨大な山車の大迫力や、 人々が祈りに詰めかけるゴールデンテンプルの御本尊、被災者の遺体を火葬するパシュパティ寺院など、 この時でなければ決して撮影できなかった貴重な映像となりました。



大震災で一層ふくらんだ親日感 ロケ隊と笑顔で交流も

 1956年の国交樹立以来、日本はネパールへの経済面や教育面での支援の実績を有し、 日本大使館やJICA(国際協力機構)はもとより、官民の多様な交流に貢献してきた両国の大勢の人々がいます。 アジア随一の親日国となったネパールの人々が日本に寄せる信頼や憧れは大きく、日本語学習熱も盛んです。
 2015年の大震災で派遣された日本のJDRは、他国の救援隊と比べても高く評価されましたが、 同隊のきめ細やかな活動を支えたのも、こうした人々のネットワークでした。
 被災地に急ごしらえされた日本隊の医療テントには、日本大使館からの要請を受け、 現地の日本語学校で学ぶ生徒たちがボランティアとして駆けつけました。そのエピソードは映画『カトマンズの約束』の中でも描かれています。
 2011年の東日本大震災では、ネパールから大量の毛布が日本に届けられましたが、地殻のプレートとプレートに挟まれた国土を有する両国は、 まさに地震災害国同士であり、本作によってその絆の一層の強まりガ印象付けられることとなるでしょう。
 ちなみに、現地のロケ撮影中のJDR副隊長役・早田友一ら日本の俳優陣が、 劇中の衣装(国際緊急援助隊の制服)のまま街を歩いていた時は、 行き交う人々から次々と「ダンニャバード(ありがとう)」と声をかけられ握手攻めになりました。 早田たちは、「我々は本物ではないんですが」と言いつつも笑顔で力強い握手を返し、期せずして貴重な交流を果たしてきたのでした。



ふたつの御柱祭を軸にふくらむ日ネ文化の交りと想像力

 映画『カトマンズの約束』で特筆されるべきは、カトマンズ最大級の祭り、インドラジャットラを劇中で描き、 これを日本の長野県・諏訪の御柱祭との文化的類似性という観点からドラマ化したことでしょう。 大地震から半年も経たずに催された2015年のインドラジャットラとともに、 6年に一度しか催されることのない諏訪の御柱祭が、本作製作中の2016年5月に催され、 撮影できたことによって、二つの御柱祭は劇中で見事な相似形を浮かび上がらせます。
 ドラマ終盤、主人公のラメスが日本を訪問し、諏訪大社で御柱祭を目撃し、 遥かな太古、両国が文化の源を同じくしていたのではないかとの思いにとらわれる場面は、この映画の核心的なテーマとなっています。 「まるでこの映画を両国の神々から"いまこそ撮れ"と強く促されたようだ」と感じたスタッフは、粛然とする想いで撮影に取り組みました。



ネパールと日本の"いま"と"これから"を問いかけて

 日本で報じられたネパール大震災のニュースに、誰より衝撃を受けたのは、在日ネパール人の人々だったでしょう。 当時の在日ネパール人社会におこった動揺、しかしその後直ちに母国救援のために立ち上がった姿が、事実に基づいて本作で再現されています。
 これらの場面の撮影に、多数の在日ネパール人の皆さんが率先して主演者やエキストラとして協力してくれたことは、本作の大きな特色です。 そのような在日ネパール人と、ネパールファンの日本人のボランティア協力のもと、完成にこぎつけたという点で、 本作は日本人とネパール人による、まさに"手作りの合作映画"となりました。



ネパール・マサラムービーの王道を行く前代未聞の映画作法

■マサラ・ムービーのクランクイン後に脚本変更
 伊藤監督のネパール映画第1作『カタプタリ~風の村の伝説~』(2008)はネパールの伝統建築や生活文化の保護を訴えたファンタジー、 2作目の『カトマンズに散る花』(2013)はネパール文学の神髄とされるパリジャート女史の短編小説「シリスコフル」を初映画化した文芸作品でした。
 いずれの主演もガネス・マン・ラマ。 彼から自身の主演企画として伊藤監督に託された3作目は、当初『マイ・ラブ』というタイトルの“マサラ・ムービー”でした。
 マサラ・ムービーとは男女のメロドラマに歌と踊りとアクションが挿入されるインド・ネパールの典型的な大衆娯楽映画のこと。 前2作の作風からは大きな路線転換ですが、 伊藤監督にとってはネパール映画の感性を内側から解明していくという研究上の新たな挑戦でもありました。
 2015年4月25日、ネパール大地震が発生。 『マイ・ラブ』の製作は中断を余儀なくされていましたが、その間、ガネス・マン・ラマは、 日本から現地に派遣された国際緊急援助隊に協力して獅子風神の働きをしたことで、日本隊から感謝メダルを授与されました。 この実話を、伊藤監督は製作中の映画に取り入れて脚本を変更、震災4ヶ月後の2015年8月から現地の瓦礫の上で撮影を再開しました。 監督は一度帰国し、9月には日本人俳優らを伴ってまたネパールに入り、ロケを続行しました。


■盛りだくさんなテーマを含む大作の完成
 こうして大地震における実話を下敷きにしながらも、 そこにマサラ・ムービーの味付けで日本人とネパール人の愛と友情の物語を織り交ぜ、 両国文化交流まで訴えるという、前代未聞の映画づくりが進められました。
 本作には『マイ・ラブ』のために既に作られていたセットや歌・音楽が使用され、主人公たちがヒマラヤを背に歌って踊る場面も挿入されています。 「まるで高校生の頃、男女生徒が入り混じってフォークダンスをした時のような楽しさがこみあげてくる」と語る伊藤監督によれば、 「最初こそ僕も気恥しかったけれど、この掛け値なしの幸福感こそネパール映画の魅力」とのこと。
 一方、災害救助活動で緊迫したり余震の地滑りで危機に陥ったりのシリアスな場面も挿まれ、 テーマも手法も盛りだくさんな、まさにマサラ・ムービーの王道を地で行く映画となりました。 大震災を背景としたネパール・テイストたっぷりのメロドラマという、他にはない見どころ満載の大作です。

※マサラ・ムービー:「マサラ」は香辛料のこと。 映画には歌、踊り、ロマンス、アクション、道化の5つのスパイスをどれも欠いてはならないというセオリーに基づく、 きわめてインド・ネパール的な映画作法であり、それが神への供物となるという考え方に立っているとされます。



「心のふるさとを守る」妖精との約束を果たす感動作の続編

 『カトマンズの約束』は、伊藤監督のネパール映画第1作 『カタプタリ~風の村の伝説~』(2008年)を 受け継いだ設定となっています。
 映画『カタプタリ(人形の意味)』の主人公のラメス少年の成長した姿が、『カトマンズの約束』の主人公・建築家のラメスその人です。 その彼が(前作で)幼き日、人形の姿をして現れた妖精と交わした約束<故郷の村の伝統と文化を大切に守る>という誓いを思い出し、 地震後のネパール復興に立ち上がるというのが、『カトマンズの約束』における新しい物語の骨子であり、いわば続編というかたちになっています。
 『カトマンズの約束』は、この前作のテーマ「心のふるさとを守る」という妖精との約束を果たすために、 主人公が踏み出す新たな人生の旅の物語なのです。
 今回の渋谷ユーロライブでの一般公開では、この『カタプタリ~風の村の伝説~』も同時上映されます。


中編ネパール映画
『カタプタリ~風の村の伝説~』(51分)
ヒマラヤの妖精と少年がネパールの農村で心交わるファンタジー作品。伊藤敏朗監督ネパール映画第一作・ネパール政府国家映画賞受賞
詳細はこちら → http://film-creation-nepal.com/shirish/shirish_kathputali.html


ネパール全国60館で公開 大地震3周年で日本でも公開

 『カトマンズの約束』は、2017年9月11日、カトマンズ国立劇場にて大々的な完成試写会を開き、 当地マスコミで一大ニュースとなり、2017年12月15日からネパール全国60館で公開されました。
(現地公開題名『My Love~Promise for Kathmandu~』ネパール語吹き替え版)
 カトマンズでは『スターウォーズ』最新作と同じ日に公開となりましたが、市内のシネコンでは俄然、本作のポスターがセンターを占め、 より多くの観客動員を果たして大ヒットとなりました。
 日本では、2018年4月25日(水)のネパール大地震3周年追悼上映会(於・中野ゼロホール)を皮切りに、渋谷・ユーロライブほかにて一般公開予定です。




カトマンズ最大級のシネマコンプレックス「ゴピクリシュナホール」にて
センターを飾る映画『カトマンズの約束』の看板と伊藤敏朗監督



劇場に詰めかけた大勢の観客の皆さま



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